大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 昭和35年(行)2号 判決 1963年3月05日

原告(選定当事者) 千葉武雄 外二名

被告 日本専売公社仙台地方局長

訴訟代理人 真鍋薫

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

一、原告

(一)  本位的請求

被告が選定者等に対し昭和三四年一月二二日付仙生第六九八号、同年三月六日付仙生第八二三号、同年六月一三日付仙生第一七〇号、同年一〇月一七日付仙生第四五一号、同月二九日付仙生第四八八号、同月三一日付仙生第四九六号、同年一一月二七日付仙生第五六八号の各通知書をもつてした求報告は、いずれもこれを取消す。被告が選定者等に対し昭和三四年一二月二六日付仙生第五九九号の二の通知書をもつてした東山たばこ耕作組合設立不認可は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。

(二)  予備的請求

被告が選定者等に対し昭和三四年一二月二六日付仙生第五九九号の二の通知書をもつてした東山たばこ耕作組合設立不認可はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

(一)  本案前の申立

本件訴を却下する。訴訟費用は原告等の負担とする。

(二)  本案に対する申立

原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。

第二、原告の主張

一、請求原因

(一)  選定者等は、いずれも昭和三三年九月一二日大蔵大臣より昭和三三年政令第一〇九号(昭和三三年五月二日「地区たばこ耕作組合の地区を定める政令」)によつて、別段の地区の指定をうけた岩手県一の関市弥栄および同県東磐井郡の地区内でのたばこ耕作者であるが、たばこ耕作組合法(昭和三三年五月二日法律第一三五号)(以下単に組合法という)の定めるところに従い、昭和三三年一一月一九日通称主流派又は一本化派こと東山たばこ耕作組合の設立発起人として創立総会を開催し、ついで同月二六日被告に対し同組合設立認可申請書を提出したところ、右申請書は即日被告に受理された。ところが、被告はその後一年経過した昭和三四年一二月に至り、昭和三四年一二月二六日付仙生第五九九号の二の通知書をもつて、東山たばこ耕作組合設立総代たる原告千葉武雄に対し、右設立認可申請はこれを不認可とする旨決定通知した。

(二)  元来、主流派は選定者等が被告の指導の下に創立総会を開催し設立認可申請した組合である。即ち、組合法が制定された結果、従来の岩手県東磐井郡一円および一の関市弥栄を地区(選定者等主流派が組合の設立を計つたと同一地区)として組合法第八条所定の如き事業を行つてきた東山たばこ耕作組合連合会(任意組合)が、組合法第五条第二項の名称使用制限の規定に抵触することとなつたため、被告の指導の下に新法による法人化を企図して一切の事務並びに資産を選定者等主流派に継承せしめ、これに発展的に解消することとなり、前項のとおり創立総会を開催し、設立認可申請に及んだのである。

(三)  しかるに、被告は、その後選定者等に対する指導態度を一変し、選定者等主流派の認可申請を拒むべき理由がないのに拘らず、組合法第四二条第二項の規定による自動認可の発効する僅か二日前である昭和三四年一月二二日に至つて、(1)同日付仙生第六九八号をもつて同法第四〇条第二項に基く報告を要求してきた。そこで選定者等が直ちに回答書を提出しようとしたところ、被告は、選定者等主流派に対し、認可をにおわしながら種々言を構え極力回答書の提出を差控えるよう懇願したので、選定者等は、一応この要望に応じ回答を差控えていたが、何らの処分もなされなかつたため速かな認可を要求して第一回回答書を提出し、同回答書は昭和三四年三月五日被告に到達した。被告は折返し翌六日(2)同日付仙生第八二三号をもつて同旨の質問書で回答を要求し、国会対策その他の事情から直ちに認可できないから回答書の提出を差控えられたい旨再度懇願してきた。しかしながら一向に埓があかなかつたため、選定者等は、第二回回答書を提出し、同書は同年六月一二日被告に到達した。被告はこれにも折返し翌一三日(3)同日付仙生第一七〇号をもつて質問書により同様の回答を要求し、前同様の懇願をくり返した。これに対する選定者等の回答は同年一〇月一七日被告に到達し、更に選定者等と被告は同年一二月二六日までの間に四回に亘りつぎのように求報告と回答を繰り返した。

(4) 被告の求報告同年一〇月一七日同日付仙生第四五一号、選定者等の回答書到着同月二八日

(5) 被告の求報告同月二九日同日付仙生第四八八号、選定者等の回答到着同月三一日

(6) 被告の求報告同月三一日同日付仙生第四九六号、選定者等の回答到着同年一一月二六日

(7) 被告の求報告同月二七日同日付仙生第五六八号、選定者等の回答到着同年一二月二六日

(四)  被告が選定者等に報告を求めてきたところを要約すれば、

(1) 選定者等主流派と反主流派との各同意組合員が相互に重複しているかどうか。

(2) 重複しているとすれば、選定者等主流派の昭和三四年度予算はその重複度合により収入減となるかどうか。

の二項目にしぼられている。

この点については、選定者等はその都度被告に対し、同意組合員数およびこれに対応する予算措置等を可能な限り詳細に報告書で提出すると同時に、被告の許に出向いて直接説明し、諒承を求めてきた。そして、被告の第六回質問書までは、いずれも右二点が質問の中心となつていたが、第七回質問に至りこの点が除かれたのである。ということは、とりもなおさずこの点については、選定者等の第六回回答書をもつて被告が満足したとの意思を表示したことなのである。ところが、被告は第七回質問を発しながらその回答をまたずに(回答を求めた以上回答を受理し、かつこれを検討すべき義務あるにも拘らず)一方的に前記のとおり不認可の決定をし、しかも右二点をその不認可の理由としているのである。

(五)  本来、右二点のようなことは、被告自身指導監督すべき立場にあるのだからいつでも把握し得るところであり、また現に第二項記載のとおり旧東山たばこ耕作組合連合会の発展的解消手続、選定者等主流派の創立総会および設立認可申請手続等は総て被告の指導の下に進められてきたのであるから、被告は、選定者等主流派の設立認可申請の経過、内容等一切を熟知しているのである。にも拘らず、単なる質問のための質問をくり返し、認可引延しの手段としてきたのである。

そして被告の組合法第四〇条第二項に基く報告の要求の最後のものは、昭和三四年一一月二七日付書面でなされたが、被告は、このように報告を要求しながら故意に選定者等のこれに対する回答をまたずに「この間一回の報告書提出の催告すらなく)、選定者等が回答を発送した同年一二月二六日これと行きちがいに前記通知書をもつて不認可決定の通知をし、一方では、選定者等と設立地区を同一にし、選定者等より一年後の昭和三四年一一月一五日創立総会を開催し、同月一七日設立認可を申請した所謂反主流派もしくは町村派、農協派こと東山たばこ耕作組合(選定者等は加入していない)に対し、選定者等主流派に対する設立不認可処分をする以前に昭和三四年一二月二五日付仙生第五九八号の二の通知書等をもつてその設立を認可した。

(六)  組合法第四一条によれば、日本専売公社(以下単に公社という)は、同法第四〇条第一項の認可申請があれば、(1)、設立手続又は定款もしくは事業計画の内容が、法令又は法令に基いてする公社の処分に違反するとき、(2)、事業を行うため適切な条件を欠く等その目的達成が困難であると認められるとき以外は設立の認可をしなければならないと規定し、他面同法第四二条第一項に、同法第四〇条第一項の認可申請があつたときは、公社は申請を受理した日から六〇日以内に発起人に対し認可又は不認可の通知を発しなければならないと規定し、又同法第四二条第二項には、何らの処分がなされずにその期間を経過したときは、その期間満了の日に設立の認可があつたものとみなすと規定し、たばこ耕作組合の設立認可申請に対する認可、不認可を厳重に覊束しているのである。そして、組合法第四〇条第二項によれば、右認可、不認可の決定をするに当つては、設立に関する事項につき報告書の提出を求めることができることになつているが、本件において求報告即ち質問の対象となつた予算編成(設立認可申請については二ケ年分の予算書の提出が要求されている)につき、選定者等主流派のそれと反主流派のそれとを比較対照してみると、つぎに述べるとおりその間にほとんど差異はみられないのである。

即ち、選定者等主流派の初年度昭和三三年度予算は、旧東山たばこ耕作組合連合会から引継いだ実行予算であるが、次年度昭和三四年度の予算は、地区内のたばこ耕作者全員七、三〇〇人を一応組合に加入させたものと仮定し、その仮定の上に立つた予算で実行予算ではなく、その編成に当つては、「たばこ耕作組合設立に関する設立認可等の取扱について」(依命通達)にあるとおり、全部被告の指導の下に作成したのである。選定者等主流派の事業からすれば、昭和三四年度予算は次年度予算であつて、これは組合の定款の定めるどころに従つて昭和三四年度の当初において、昭和三三年度の実績を基礎として定められるもので、例えば、組合員数にしても、組合の脱退加入は自由であるから、その増減も当然考えられるし、またその他の事情の変更もあり得るから、改めて昭和三四年度の実行予算として組替えられるべき性質のものなのである。従つて組合員数の重複とか予算の数値とかを如何にするかにつき問題があるとすれば、次年度の昭和三四年度の当初において問題とすべきものなのであつて、昭和三三年度においては問題の重要性はないものというべきである。

つぎに反主流派の認可申請における二ケ年分の予算編成についてみると、初年度の昭和三四年度と次年度の昭和三五年度予算はいずれも地区内の全耕作者を加入組合員として計上している(昭和三四年度においては加入組合員を七、〇一八人と計上し、昭和三五年度においては七、〇〇〇人としてこれを予算の基礎にしている)。昭和三四年度の予算は初年度の予算であるから、現実に即した実行予算でなければならないのに、右のとおり加入組合員を七、〇一八人としているのであるが、これは当時の前記地区内の全耕作者であつて(勿論被告はこの数字を熟知している)、そのうちには地域的にいつても八沢南部、同北部、松川、津谷川四地区からは代表者も組合員も参加していないし、又選定者等主流派との重複の関係からみても、選定者等主流派全員が反主流派組合に加入しなければ到底出て来ない数字なのである。従つて被告が選定者等に対して質問権を行使したことを他意ないものとして受取るならば、当然反主流派の予算の編成についても同様の二点が問題とされなければならないのである。それがなされなかつたということは、結局設立認可手続の途上において、被告が第三者の政治的圧力に屈した結果(当初、被告が選定者等主流派を認可すべきものとして取扱つていたことは、公社仙台地方局千厩支局長の被告に宛てた甲第一一号証の意見書に徴しても明らかである)であつて、選定者等に対する質問権の行使は、これが事態収拾のための時間稼ぎを目的とし、認可の引延しを策するためになされたものであることは明瞭であると云わざるを得ない。

(七)  元来、組合法第四〇条第二項の質問権の行使は、これによつて同法第四二条第二項の認可の自然発効を阻止する法的効果を発生する法律行為であつて、広汎な地域に亘る認可申請者である組合員大衆は勿論、全耕作者の権益に与える結果は極めて重大であるから、公益上その行使には慎重を期すべきものである。従つて、それは組合設立の認可、不認可を決定するにつき資料蒐集の方法として真に止むを得ざる限度においてのみ許るさるべき性質のものである。しかるに、被告は、上記のとおりこの目的を離れ、恣意に質問を構え徒に時間稼ぎを目的として認可の自然発効を阻止するためにこれを行使したのであつて、かかる不純な動機に出た前記(1)ないし(7)の質問権の行使は、権利の濫用であり、法の許す限界を逸脱した公益侵害の行為であつて、まさに取消さるべき違法なものである。

それ故に同時に、右質問権行使の行為が取消される結果は当然に認可の自然発効を伴い、被告が選定者等に対してした前記設立不認可の決定はその意義を失うに至り当然に無効なものとなる。

(八)  仮に前記(1)ないし(7)の質問権の行使が取消さるべきではなく、その結果不認可処分も無効とならないとしても、たばこ耕作組合の認可、不認可の裁量は、組合法が厳重に覊束するところであり、同法第四一条が特に除外事由を列挙してそれ以外の場合は認可すべきことを命じたり、同法第四二条が申請を受理した以上当然認可すべきことを前提とし、恣意によつて認可、不認可が左右され、或は未決の状態において放置されることのないよう認可の自然発効の規定を設け、更に不認可とするときは、不認可の理由を明白にしていやしくもその処分につき寸毫も不都合を生ずることがないようにすると共に、認可申請の権利を保護している所以のものは、結局広汎な地域にわたる耕作者大衆の利益を擁護し、公益の安全を図るために認可、不認可の裁量の自由を覊束する必要があるからである。

組合法には、鉱業法第二七条のような先願優先の規定はないが、組合法第三条第二項によれば、同一区域を地区とする組合は一個に限られているのであるから、反主流派の認可ということはとりもなおさず選定者等主流派の不認可を意味するのであつて、ここにも鉱業法と同じく先願優先の原則が適用されることが条理に照らしても当然である。そうであるならば、前記のとおりほとんど同一条件下にある二者のうち、先願の選定者等主流派に対する処分を放置しながら、後願の反主流派を認可することは、まさに恣意に基ずく越権の行為と云うべく、被告が選定者等に対してした設立不認可処分は、この意味で行政権の濫用であり、違法な処分であるから取消さるべきものである。

また、被告は選定者等に対する不認可通知において、その理由を単に組合法第四一条第二号に該当すると云うだけで、選定者等主流派組合が事業を遂行して行く上において、如何なる点に適切な条件を欠き、そのためどの点において目的を達成することが困難なのかを明らかにしていない。同法第四一条が認可除外事由を限定列挙し、第四二条第二項が不認可理由の通知を要求し、同条第五項が不認可処分に対する訴の提起を予想していること等の法意に照らすときは、右不認可通知は単なる条文の羅列だけを求めているのではなく、具体的な説明を要求しているものと解せざるを得ない。そうだとすれば、選定者等に対する被告の不認可通知はその理由の説明を欠き、適式な法的要件を欠くものとしても取消さるべきである。このような形式的要件の欠缺を別にするとしても、実質的にみても、被告の右不認可処分は、上述したところから明らかなように、その裁量の覊束を逸脱した不法な行為であつて、取消さるべきものであることは勿論であるが、仮に一歩譲り、それが被告の自由裁量に属するものとしても、それにも自ら法の許容する限界が存するのであつて、本件における被告の不認可処分はまさに右裁量の限界を逸脱した違法な処分であるから、取消を免れないものである。

二、被告の本案前の主張に対する反論

(一)  日本専売公社業務権限規程(昭和二四年六月一日総裁達(総)第一〇号)(以下単に業務権限規程という)によれば、組合法第四一条によるたばこ耕作組合設立認可の権限実施者は、その組合が中央会および連合会のときは総裁、本件の如き地区組合の場合は地方方局長と定め、地区組合については地方局長の権限において組合設立の認可不認可を決裁することができる旨規定している。ところで、日本専売公社(以下単に公社法という)第一五条は、総裁は公社の職員の中から、従たる事務所の業務に関し一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する代理人を選任することができるとして、地方局長に対し総括的に広汎な代理権限を認めているのであるから、右業務権限規程の趣旨が、公社法第一五条および日本専売公社に対する法令の準用等に関する政令(昭和二四年五月二八日政令第一一六号)(以下単に法令の準用に関する政令という)第一条第二項にいう代理人に対する代理権限を定めたものであるとすれば、特に右の如き業務権限規程を設けて代理をなし得る場合を列挙する必要は毛頭存しないわけである。もしそうでないとすれば、同業務権限規程には、地方局長以外の公社法第一五条に代理人として規定されていない総裁、地方局の支所長、販売所長等の権限も同列に列挙されているのに、なぜ地方局長に対してのみ右規定が代理権限の規程となるのか解釈に苦しむ結果となる。のみならず、地方局長の権限は悉く公社のための代理行為に限られるとするならば、日本専売公社職制(昭和二七年三月総裁達第一五〇号)第一九条第二項により、公社の役員である理事をもつて地方局長にあてる場合もあるのだから、このような場合職員でない、従つて代理人でない役員たる局長の地方局長としての権限は、これをいずれの法令に根拠を求めるのであろうか。更にその結果、法令の準用に関する政令第一条第二項の裁判上の専属管轄の規定は、このような地方局長の場合には適用されない不便がある。元来、職制の建前からすれば、地方局長は地方局長として独自の権限があるべきで、偶々役員が地方局長に就任したからといつて、そのことにより権限が変動し、専属管轄まで変るという如き不安定な職制はあり得ない。してみれば、業務権限規定は地方局長の代理の権限を設定したものではなく、地方局長に対し、その列挙するところの権限を委譲したものと解すべきである。

そうだとすれば、公社は公社法第四九条により国の行政機関とみなされ、従つて地方局はその一機関とみるべきであるから、被告は行政事件訴訟特例法第三条の処分をした行政庁に該当し、被告適格を存するものというべきであるから、本訴提起は適法である。

(二)  被告の主張するとおり、原告等は昭和三六年二月六日の第八回準備手続期日において、請求の趣旨を変更しているのであるが、右請求についての出訴期間については、本件訴状提出の日に右請求についても訴の提起があつたものと解すべきであるらか、被告のこの点についての主張も理由がない。

(三)  被告は、いわゆる反主流派に対する認可が違法であることは自明であるとの前提に立ち、同派に対する認可区域と選定者等主流派に対するそれとは同一なのだから、たとえ主流派に対する不認可処分が取消されても組合法第四二条第五項の適用をうける余地がなく、訴の利益が存しないと主張するが、反主流派に対する認可処分の適法性はしかく明白なものではない。

即ち、主流派に対する不認可処分が取消されるということは、そのことによつて、組合法第四二条第五項の自動的認可の効力の発生を促し、その後になつて認可を申請した反主流派に対する認可処分は、逆にすでに同一地区に主流派の設立が認可されているのだから、組合法第三条第二項の一地区一組合の制限をうけて認可すべからざるものとなつて、必然的に無効への道に通ずるものだからである。従つて、主流派に対する不認可処分の取消を求める本訴は、やがて選定者等主流派に対する設立認可ということになるのであつて、原告等は本訴につき重大な利益を有するものである。

第三、被告の主張

一、本案前の主張

(一)  公社地方局長を被告とした本訴は、被告適格を有しない者を被告とした不適法な訴であるから却下さるべきである。

即ち、組合法第四一条によれば、たばこ耕作組合の設立認可は公社がこれを行う旨規定されているが、公社法によれば、総裁は公社を代表し(同法第一一条)、また公社の職員の中から従たる事務所の業務に関し一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する代理人を選任することができる(同法第一五条)旨規定されており、被告はこの規定に基く公社の代理人として、業務権限規程の定める区分に従い、公社のために本件たばこ耕作組合設立不認可の処分を行つたにすぎないのである。そして公社法第四九条によれば、政令で定める法令については政令の定めるところにより、公社を国の行政機関とみなしてこれらの法令を準用するとされており、この規定をうけて制定された法令の準用に関する政令第一条第一項は、右規定により公社を国の行政機関とみなして行政事件訴訟特例法を準用するものとし、その第二項においては、この場合には右行政事件訴訟特例法第四条の規定に拘らず、公社の違法な処分の取消又は変更を求める訴は、公社のために処分をした公社の役員又は公社法第一五条の規定による代理人の所属する公社の主たる事務所又は従たる事務所の所在地の裁判所の専属管轄とするものとしている。してみれば、これによる行政事件訴訟特例法の準用に当つては、同法にいう被告たる行政庁とは公社をさすものというべきであり、本件の如く公社の代理人たる地方局長が公社のためにした処分の取消又は無効確認を求める訴においては、右地方局長を被告とすべきではなく、公社を被告とすべきことは明らかである。従つて被告適格を有しない地方局長を被告とした本訴は不適法であるから却下さるべきである。

(二)  仮に右主張が理由がないとしても、抗告訴訟の対象は事実行為ではなく法律行為たる行政処分であるべきところ、本訴において原告等が取消を求めている被告の選定者等に対し報告を求めた行為は事実行為であるから抗告訴訟の対象とはなり得ないものである。

組合法第四〇条、第四二条によれば、組合設立認可の申請を受けた公社は、認可、不認可を決するにつき、発起人に対し組合の設立に関し報告を要求し得るとされているが、右求報告は、認可又は不認可という行政処分をするについての審査の一手段として事実の解明を求めるものであつて、それによつて申請者に何らの権利義務又は法律関係の変動を及ぼすものではなく、従つて報告を求めるということ自体は取り消しようのない事実行為であるといわねばならない。行政処分が抗告訴訟の対象たり得るのはそれによつて行政処分により所期した法律効果の発生、変更、消滅等法律関係の変動を阻止しようとするにあるところ、右のような求報告は、それによつて何らの法律関係の変動を所期してするものでもなく、又そのような効果を賦与されているものでもないのであるらか、行政処分と目し得ないものである。

成程、組合法第四二条第三項は、「公社が第四〇条第二項の規定により報告書の提出の要求を発したときは、その日からその報告書が公社に到達するまでの期間は、第一項の期間に算入しない。」と規定しているので、一見原告等主張のように求報告を取り消せば期間不算入の効果が排除され、選定者等の申請は六〇日の経過によつて認可の擬制を受けるように見える。しかし、右の期間不算入の規定は、求報告そのものが目的とする法律関係の変動ではなく、求報告はあくまで報告書の提出を求めるという審査の一手段たる事実行為なのであるから、右の規定を根拠に求報告が行政処分であるということは正当ではない。なお、期間不算入は求報告の日と報告書の提出の日との期間の不算入ということなのであるから、仮に原告等の見解に従うとしても、求報告のみの取消ということは無意味なことといわねばならない。更に原告等は不認可処分を受けた結果からのみ求報告を濫用として非難し、その取消を求めているけれども、仮に申請が認可されていれば繰返しなされた求報告でも違法として主張することはできないものであるから、この一事からしても求報告だけを独立して取消の対象とすることは出来ないものというべきである。

(三)  また、仮に原告等の見解に立つとしても、原告等は昭和三六年二月六日の第八回準備手続期日において請求の趣旨を追加変更し、本位的請求として求報告の取消を求めるに至つたのであるが、これについては、右変更手続がなされた日に訴の提起があつたものと解すべきであるから、すでに出訴期間を経過しており、この点においても原告等の本位的請求は不適法であるといわなければならない。

(四)  仮に以上の主張が総て理由がないとしても、組合法第三条第二項は、同一区域を地区とする組合は一個とする旨明定しており、選定者等がたばこ耕作組合の設立認可を求める区域を地区として、すでに東山たばこ耕作組合(原告等のいわゆる反主流派組合)が設立され適法に認可を受けているのであるから、公社としては選定者等の設立認可申請を容れる余地がないのみならず、また同法第四二条第五項の不認可処分取消の判決がなされた場合には、その判決確定の日に設立の認可があつたものとみなされる旨の法律効果も生ずる余地はないものと云うべきであつて、選定者等は本訴によつて何等法律上の利益を得るところはないのであるから、原告等の本訴請求には訴の利益を欠く不適法があるといわなければならない。

原告等は、選定者等に対する不認可処分が取り消されれば、さきにした原告等のいわゆる反主流派に対する認可処分が当然に無効となるとされるが、その根拠は極めて明確を欠き、理由のないものというべきである。けだし、さきにした認可処分につき、公社が適法に取り消すこともなく、裁判所も取消又は無効宣言もせず、ましてその旨の法律の規定もないのに、さきにした認可処分が当然に無効となることはあり得ない筈だからである。

なお、組合法第三条第二項が、一地区一組合主義を明規していることは前記のとおりであるが、仮に原告等の見解に立つとしても、この規定に違背する結果が発生した場合、当然に先に申請した方が優先すると解すべきではなく、組合法第四二条第五項により取消判決確定の日(なお無効確認の訴についても組合法第四二条第五項は準用せらるべきものと解する)に認可があつたものとみなされるのであるから、結局原告等のいわゆる反主流派に対する認可が優先することとなる。のみならず、原告等主張のように解するならば、さきに認可された組合は他人に対する不認可処分の取消によつて、自ら不知の間に認可無効の結果を招来するのであつて、その不合理は多く論ずるまでもない。いつたい組合法第三条第二項の一地区一組合主義の規定と、同法第四二条第五項の取消判決確定による設立認可の擬制の規定が併存しているのは、法が不認可処分の取消によつて一地区に二以上の組合が認可されたような事態の発生を予想していないことによるのであつて、換言すれば、組合法第四二条第五項の規定が働くのは、同法第三条第二項の規定違背の事態の発生のない場合に限るということを論理上の前程としているのである。そうでないと一の法律の内に矛盾をはらんでいることになるからである。従つて、原告等の取消又は無効確認の訴は適法要件を欠くものと云わざるを得ない。

二、本案についての主張

(一)  原告等の主張に対する認否

(1) 原告等主張の(一)の事実は認めるが、(二)の事実は否認する。(三)のうち、昭和三四年一月二二日より同年一一月二七日までの間に七回にわたり原告等主張のとおり求報告およびそれに対する回答がなされたこと(但し、選定者等の回答が被告に到着した日のうち、昭和三四年六月一二日とあるのは同月一三日であり、同年一〇月二八日とあるのは同月二九日である)は認めるが、その余の点は否認する。(三)のうち、原告等主張のとおり選定者等に対し不認可決定をしたことは認めるが、他は否認する。(五)のうち、昭和三四年一一月五日創立総会を開催し、同月一七日組合設立の認可申請をした東山たばこ耕作組合を、同年一二月二五日認可したことは認めるが、その余の点は否認する。(六)ないし(八)の原告等の主張はいずれも争う。

(二)  原告等の主張に対する反論

(1) 選定者等の組合設立申請に至るまでの経緯

昭和三三年五月二日法律第一三五号をもつて組合法が公布され、即日施行されることとなるや、従来任意団体として本件地区内で事業を遂行していた東山たばこ耕作組合連合会は、その下部組合と共に解散し、組合法に基く組合の設立をしなければならなくなつた。この組合法によれば、単位組合の地区は政令で定める区域と定められ、同一の区域を地区とする組合は一個とすると規定され(同法第三条)、この法律に基く地区たばこ耕作組合の地区を定める政令(昭和三三年政令第一〇九号)によると、その地区は原則として葉たばこの収納を行う公社の事務所の所轄区域とされ、これにより難い特別の事情のある場合は、大蔵大臣の定めるところによつて別段の区域を一地区とすることができるとされたのである。

ところで、本件地区については、たばこ耕作者間において、従来の機構、生産業たばこの種類、耕作者の数その他の事情を勘案して一地区とすべしとの論と、町村別又はその他の基準により数地区とすべしとの論の二つに意見が分れたのであるが、結局岩手県一の関市弥栄、同県東磐井郡を一地区とする意見に統一され、昭和三三年八月一六日その旨の地区指定の要望があつたので、大蔵大臣は同年九月一二日右要望どおりの指定をした。しかし、その前後を通じて再び右のような地区指定に反対する意見が抬頭し、町村別又はその他の基準で本件地区を数地区に分割しようという動きが現われはじめ、種々の地区指定の要望が相次いで提出されるという事態が惹起された。また一方においては、すでに右のように大蔵大臣の地区指定がなされた以上、組合の設立は法に従つて右地区に一組合が設立せらるべきものであるとして、関係者の間でその趣旨に従つて組合設立の手続が進められたのであるが、他方これに反対する耕作者等の動きが活発化し、事態の推移は楽観を許さない情況となつた。しかし公社としては、組合は組合員の自主的運営により耕作者の生産増強および地位の向上を図るのを主たる目的とするものであるのに鑑み、この問題に積極的に介入することにより、公社が官僚統制するとの誤解を招き、かえつて事態を紛糾に導くことをおそれ、消極的態度をもつてこれに臨み、円満かつ早期の解決を希つていた。ところが事態の好転は必ずしも期待し得なくなり、ついに比較的第三者的立場にある岩手県知事の斡旋をうけることになり、同知事および同県石田農林部長等の事態を直視した理解ある奔走が始つた。そしてこのように事態の円満な収拾への一条の曙光がさしはじめようとしたときである同年一一月二六日、選定者等は本件地区内の耕作者の五割程度の人員を擁して組合設立の申請をしたのである。

(2) 選定者等の申請の経緯

右のような客観情勢の下においても、組合設立の申請が提出された以上、公社としてはその権限と責任において認可、不認可を決すべき義務があるわけであるから、直ちに右申請の審査に入つたところ、選定者等の右申請については、後記のとおり組合員数、予算計上の数値、事業計画等につき少なからず疑問の点があり、このまま認可しては事業の目的を達することが困難であるようにみうけられた。

一方岩手県知事は、石田農林部長等と共に斡旋をすすめたが、昭和三三年一二月九日選定者等および原則として町村別の基準で本件地区内に数組合を設立しようとする耕作者等(以下町村派という)の代表を盛岡市に招致し、斡旋案を提示した。その大綱は本件地区を二分し、二組合を設立するというものであつた。町村派は県知事の右提案を尊重し、従来の行きがかりを捨ててこれに応ずべきであるとして、これを受諾する態度を表明したが、選定者等はその主張を捨てず、態度表明を留保した。県知事は、その後も引き続き右提案をうけ入れるよう選定者等に対し説得につとめたが、結局選定者等は従来の一組合の主張を固執して右斡旋案を受諾するに至らなかつた。しかし、県知事等はなおも種々奔走し、昭和三四年三月三一日両派代表者会議が開かれるなどして円満解決のきざしがみえはじめたので、その時機をとらえ、再び県知事の斡旋案が同年六月二八日岩手県信連一の関支所において両派代表に対し石田農林部長から提示された。これによると、(イ)、郡一円の組合をつくり、事務所は県信連千厩支所に置くものとする。(ロ)、たばこ耕作組合の運営を適正かつ円滑にするため支部を置くものとし、その設置は原則として単位農協毎とする。(ハ)、支部に運営委員会を設置し、自主的活動を行わしめるものとする。(ニ)、総会は代議員会制とする。(ホ)、葉たばこ生産上必要な肥料、資材の共同購入、葉たばこの生産上必要な資金借入の斡旋、葉たばこ代金の支払については、たばこ耕作者の意志を尊重し、たばこ耕作組合と農協との間において相互に密接な協調を保つように努めるものとする。というのである(郡一円とは東磐井郡および一の関市弥栄をいう)。これは本件地区をもつて一組合とするという選定者等の主張を全面的に容れたもので、その後の諸情勢に鑑み新な観点から提示され、選定者等はこれを歓迎し直ちに受諾したが、町村派は先の提案より後退し、自己の主張と距るとしてその内部で相当に討論がなされたけれども、組合設立にからんで耕作者等が紛争を続けることは、葉たばこ生産上は勿論、その他の関係からしても好ましくないから事態を円満かつ早期に解決すべしとの意見が大勢を占め、右提案に応ずることにしたのである。

かように事態が急転収拾されたので、石田農林部長は直ちに県知事と連絡のうえ、翌六月二九日盛岡市に両派を招致し、その席上、知事は前記各条項を各項毎に読み上げて両派にそれぞれ受諾の意思の有無を確かめた結果、右各条項は両派に全面的に受諾されたことが確認された。

両派は右条項に従い新組合の設立に進むこととし、同年七月六日石田農林部長、町村派の三浦武三郎、選定者等からは菅原兵司が、公社仙台地方局に出頭し、以上の経過ならびに受諾した斡旋の内容、設立申請の取運び方、更にはすでになした選定者等の申請の取下等につき説明するに至つたため、公社としては、選定者等から先になされた申請に対し処分をすることは適当でない情勢となつたのである。その後、同年一〇月一日には斡旋案の線に副つて両派からそれぞれ発起人が選出されて第一回の発起人会が開催され、ついで同月一一日に第二回、同月一五日には第三回発起人会が開かれ、同年一一月五日には創立総会を開くことになつた。しかるに、選定者一派の一三名の発起人が創立総会前日の一一月四日突如として発起人を辞退する旨申し出た。

その理由は不詳であつたが、いずれにしろ一旦した県知事の斡旋案受諾と相反する行動であるので、他の者は飜意を勧め、被告においても、その真意をはかりかね、また選定者等の申請が未だ取下げられずにあつたため、これに対する処分も考慮する必要があつて、選定者等に対し数回に亘つて報告を求めたのである。特に組合員の数および予算計上の数値並びにこれらの点に深い関連をもつ事項について報告を求めたのは、右のような事態の推移に鑑み、これらの点が選定者等の申請の適否に重大な影響を及ぼすと判断したからである。しかるに、選定者等は被告の求報告に対し十分な釈明をしないのみならず、県知事斡旋案受諾の意思表明とは全く相反する報告を寄せるなど極めて不信な態度をとつたのである。

選定者等のこのような動きとは別に、県知事の斡旋の線にそつて新組合設立の手続も順調にすすめられ、同年一一月一七日には三浦武三郎等が発起人となつて、新に組合設立の認可申請がなされるに至つた。

(3) 不認可処分の理由

右のような事情で、同一地区に二つの組合設立申請が競合してなされるに至つたので、公社としてはそのいずれかを選択して認可しなければならなかつたのであるが、選定者等の申請についてはつぎに述べるような難点があり、両申請を比較すると、選定者等の申請は組合法第四一条第二号に該当することが明確となつたのである。即ち、

(イ) 組合員の数

選定者等の申請書類によれば、選定者等加入組合員の数は四、〇六三名で、本件地区の全耕作者七、二九五名に対し約五割強にすぎない。ところで、たばこ耕作組合はたばこ耕作者の協同組織の発達を促進し、もつて葉たばこ生産の増強とたばこ耕作者の経済的社会的地位の向上を図り、あわせてたばこ専売事業の健全な発達に資することを目的として制定された組合法に基いて設立されるものであるところ、この場合、もし本件地区内に上述したような複雑な動きがないのであれば、申請にかかる四、〇六三名の数字は漸次相当の伸びを示し、組合設立の目的に副うであろうことは想像するに難くないところである。しかし、叙上のような事情を反映し、耕作者の中にはいずれの組合に加入すべきかにつき決断を欠き、重複して両派の組合員として行動する者、一旦選定者等の組合に加入を表明しながらこれから脱退する者などがあり、発起人のうちにすら他の組合の発起人にもなるなど不信な者がいて、耕作者の関係者の信頼を裏切る等、選定者等申請の組合に加入しない耕作者が半数近くいることをもにらみ合せて、選定者等申請の組合は組合法制定の目的に副はず、組合の建全な発達は期し得ず、従つて事業の遂行には著しい困難が予想されるように観取されたのである。

これに対し、後の申請にかかる組合の組合員数は五、四九七名(申請当時の全耕作者は七、〇一八名)であつて、選定者等申請にかかる組合員数より多いのみならず、後者は、前記斡旋案の線に副つて組合の運営をしようとする誠実な態度がうかがわれ、耕作者も後者を支持するように認められた。

(ロ) 耕作面積

選定者等申請にかかる組合の耕作面積は、約六四一ヘクタールにすぎないが、後の申請にかかる組合のそれは約八四一ヘクタールであつて、選定者等のそれよりも多い。これによれば、事業の運営上選定者等組合は後者に比し適切な条件を欠くものというべきである。

(ハ) 予算計上の数値について

選定者等の提出した収入支出予算によれば、昭和三四年度予算において、選定者等は本件地区内耕作者全員が組合員となる前提で予算を編成しているが、前記のような事情の下において、その実現は相当に危惧される状態にあり、このことは耕作者の利害の点でも、また公社の立場からしても軽視できない点であると認められた。

(ニ) 賦課金について

賦課金は、昭和三四年度について云えば、選定者等申請の組合は、収納代金一〇〇円につき二円三〇銭であるのに対し、後の申請にかかる組合においては、一〇〇円につき一円七〇銭であつて、後者の方が耕作者に利益で、その組合結成の目的からして望ましいと認められた。

(ホ) 事業計画について

選定者等申請の組合においては、定款に葉たばこの生産上必要な肥料、資材の共同購入、資金の借入の斡旋を事業の内容としているに拘らず、申請書添付の事業計画書にはその掲記がなく、耕作者のためには必ずしも有利でないように窺われた。これに対し後の申請にかかる組合においては、この点を事業計画に折り込み、その遂行は農協との協調の面でも容易であるように観取された。

(ヘ) 発起人の態度について

すでに述べたように、当初選定者等の申請する組合の発起人となつた者は、すべて一旦後の申請にかかる組合の発起人になつたのであるが、選定者等少数の発起人が県知事斡旋案受諾後態度を急変し、後の申請にかかる発起人を辞退するという不信な行動を示した。これによれば、選定者等申請組合よりは後の申請にかかる組合の方が事業を行い、その目的を達するにつきよりよい条件を具備していると認められた。

以上のとおり両申請を比較検討すれば、選定者等の申請は組合法第四一条第二号に該当すると認められたので、公社は昭和三四年一一月二六日選定者等の申請を認可しないことにし、同日その旨の通知を選定者等にしたのである。

(4) 求報告取消請求について

前掲の組合員数、予算計上の数値の項において述べたとおりの情況の下において、公社は生産葉たばこの収納機関として、たばこ耕作組合の組合員数およびその動向には重大な関心を示さざるを得ないものと認められた。そこで、公社においては選定者等がこのような組合員の動揺を如何にして安定させ、事業の完遂につき如何なる成算を有するか等に関し選定者等に回答を求めたが、選定者等は首肯するに足る回答を寄せないのみか、単に認可の促進を求めるにすぎなかつた。右求報告につき、原告等は被告の不純な動機に基く求報告権の濫用を主張するのであるが、たばこ耕作組合は耕作者の自主的な運営に委ねられ、設立を強制されないから、耕作者の数そのものは公社において把握することはあつても、組合員たらんとする者が幾人であるかは知り得るかぎりでない。また仮に原告等の主張する如く選定者等組合の設立手続に公社職員が援助したとしても、それは形式的手続に関与したに止り、公社としては法令に基いてのみ選定者等の設立せんとする組合の実態を知るのであつて、それに依らない知識を選定者等組合につき得たとしても、それは単に私的なもので公社の公的認識ということはできないのである。かような事情からして組合員数についても納得いくまで質問をくり返すことは決して怪しむに足りないのである。そして、公社側としては、原告等の主張するように、第六回回答で満足したのではなく、これ以上回答を求めても到底納得のいく回答は期待できないように窺え、更に昭和三四年一〇月頃から別に不審な点が出てきたので第七回質問ではこれを中心にしたにすぎず、すでに第六回までの回答により選定者等の申請を不認可とするに熟するものと判断したので前記のとおり不認可決定したのであり、七回目の回答を待たなかつたからといつて非難するのは筋違いというべきである。

仮に原告等の主張するような不純な動機があつたとしても、被告のした求報告そのものが違法とされるいわれはない。けだし、動機が不純であつたとしても、それは求報告の行為そのものに表示されているわけではないから、求報告そのものに影響を与える筈はないからである。(私法行為におけるかくれた動機が法律行為の効力に影響を及ぼさないのと対比することができよう。)また権利の濫用といわれるためには、権利者が権利行使に藉口する害意を有しなければならないが、本件においては公社に全く害意はないのであるから、もともと権利濫用の問題を生ずる余地はないのである。のみならず、求報告については、法律上公社になんらの制限が課されているわけではないから、仮に同じ事項について数回にわたつて報告を求めたからといつて、当然に濫用と評価されるべきものでもなく、原告等のいわゆる反主流派に対して報告を求めなかつたこととの対比において濫用と目される筋合でもない。

(5) 不認可無効確認請求について

原告等は、右質問権行使の取消によつて、選定者等主流派に対する認可の自然発効を生ずる結果、選定者等に対する不認可処分はその意義を失い、当然に無効となると主張するが、仮に求質問の取消があつても、組合法第三条第二項の規定がある以上、当然同法第四二条第二項が働くと解すべき余地はないと考えなければ不合理で、法的安定を害する結果を来たすと云わなければならないことは、すでに本案前の主張(四)において述べたとおりである。換言すれば、組合法第四二条第二項はすでに有効に組合の設立認可がなされた場合(違法であつて取消されない場合も同様)には適用をみないと解するのが妥当である。

(6) 不認可取消請求について

選定者等に対する不認可通知の書面において、公社は組合法第四一条第二号に該当すると認めると不認可理由を記載したが、右記載によつて不備はないと考える。けだし不認可の事由は法によつて具体的に定められており、これに該当しない場合は常に認可せらるべきものであるから、右条文を掲げておけば処分をうける者にとつて処分の理由が十分理解できる筈のものだからである。(所得税法第二六条第一一項、法人税法第二五条第九項参照)。殊に、処分の理由は一般第三者に周知させることを目的とするものでなく、当事者において了解すれば足ると解すべきところ、上来述べてきたような経緯にあることは、選定者等においても承知しているのであるから、これらの事情の下において、右記載の理由を読めば不認可の根拠は極めて明白と云うべきであろう。

仮に右記載の理由で不十分だとしても、それは処分そのものの適否に影響を与えるものとは云うことができない。けだし、理由の記載は権利救済のための方便の一つにすぎないのであつて、理由の記載の不備そのものが権利の侵害を結果するものではないからである。換言すれば、権利救済のなんらかの段階で不認可の根拠が明示されればなんら処分を受けた者にとつて不利益はないのであつて、本件についていえば、本訴においてその根拠が明白にされたのであるから、理由の記載そのものの不備は選定者等に不利益を及ぼしたと云うことは出来ない。

また、実質的にみても、自由裁量たる不認可処分は、原告等の主張するように単に質問をくり返したことのみによつて違法となることはない。一定の処分が違法かどうかは法律効果を生む処分そのものについて判断すべきであつて、この処分に至る経過が処分の適否に影響することはない。これを違法とするには、不認可処分の内容自体が裁量上の範囲を逸脱していなければならないのであるが、この点について十分の理由の存することは前述したところによつて明らかであつて、この点においても何らの違法はないと云うべきである。

また、組合法は先願者優先を定めていない。(鉱業法第二七条、特許法第三九条、実用新案法第七条等参照)たばこ耕作組合の設立認可については、組合法第一条の目的に照らし、権利を授与する鉱業許可とか、発明を確認公証する特許権の特許査定等と全く異る原理が働くのであつて、先願主義を容れる余地はない。一地区一組合主義をとるからこそ、組合設立の申請が、組合法制定の趣旨にそう形式と実態を有する組合たり得るかどうかを慎重に審査し決定すべきであつて、この点の原告等の主張もまた理由がないというべきである。

以上いずれの点よりするも、原告等の本訴請求は失当であつて、棄却さるべきものである。

第四証拠<省略>

理由

まず被告適格の点について判断する。

原告等主張のとおり、選定者等が、大蔵大臣から別段の地区の指定をうけた岩手県一の関市弥栄、同県東磐井郡内でのたばこ耕作者であり、組合法の定めに従い、同地区におけるたばこ耕作組合の設立発起人となつて、昭和三三年一一月一九日創立総会を開催し、ついで同月二六日被告に対し同組合創立認可申請書を提出したところ、右申請書は即日受理されたが、その後被告は昭和三四年一月二二日から同年一一月二七日までの間に七回にわたり、選定者等に対し組合の設立に関する報告を求め、ついに同年一二月に至り、同月二六日付仙生第五九九号の二の通知書をもつて右設立認可申請はこれを不認可とする旨決定通知したことは当事者間に争がない。

ところで、組合法第四〇条第二項、第四一条によれば、たばこ耕作組合設立認可申請に対する認可、不認可は、公社がこれを行うこととなつており、その際公社は発起人に対し組合の設立に関する報告書の提出を要求することができるとされている。公社法によると、公社は公法上の法人であつて(同法第二条)、公社総裁によつて代表されるが(同法第一一条)、その資本金は政府の出資するところで(同法第四条)、人事、業務執行、会計等全般にわたり大蔵大臣の監督の下におかれ(同法第四四条等)、公社の予算は国の予算とともに国会に提出され(同法第三四条の二)、国の予算の例にならつて議決される必要があり(同法第三七条)、その役員および職員は法令により公務に従事する職員とみなす(同法第一八条)と規定されるなど、その法制上一定限度で国の行政機関に準ずる取扱いをうけているのであるが、更に公社法第四九条および同条の規定をうけて制定された法令の準用に関する政令第一条第一項によれば、公社についてはこれを国の行政機関とみなして行政事件訴訟特例法を準用する旨定められている。そして、同政令第一条第二項によれば、この場合にあつては右行政事件訴訟特例法第四条の規定に拘らず、公社の違法な処分の取消又は変更を求める訴は、公社のために処分をした公社役員、又は公社法第一五条の規定による代理人の所属する公社の主たる事務所、又は従たる事務所の所在地の専属管轄とする旨定め、同政令第五条には、公社について同政令の定める諸法令を準用するに当つての読み替え規定をおいているのであるが、同条には訴願法について同法第二条第一項の「処分をなしたる行政庁」とは「公社のために処分をなしたる公社の役員又は公社法第一五条の規定による代理人」と、「直接上級行政庁」とは「公社の総裁(公社のために公社の総裁がなしたる処分に係る場合は大蔵大臣)」と、訴願法第二条第二項の「上級行政庁」とは「大蔵大臣」とそれぞれ読み替えるものとすると規定されているが、行政事件訴訟特例法についてはかかる読み替え規定は存しない。

従つて、これら諸規定を総合して判断すると、本件の如き公社によつてなさるべき処分が違法であるとして、その取消又は無効確認を求める訴につき行政事件訴訟特例法を準用するに当つては、同法第三条にいう「処分をした行政庁」とは公社を指すものと解するのが相当である。

もつとも、いずれも成立に争のない甲第三号証、第五号証の一ないし七によれば、本件求報告および不認可の決定は、いずれも被告作成名義の文書によつてなされていることが認められ、また業務権限規程の2、たばこ耕作組合関係欄には、組合法第四〇条第一項の規定に根拠をおくたばこ耕作組合設立認可の権限実施者は、中央会および連合会の場合は公社総裁、地区組合の場合は公社地方局長とする旨定められてあり、これらによれば、組合法第四一条による設立認可の権限は、地区組合に関する限り地方局長に委譲されたものとみる余地がないわけではない。

しかしながら、右業務権限規程は総裁達という形式の総裁によつて発せられる公社の内部的な訓令にすぎないのであつて、一般に権限の委譲については代理権の授与の場合と異り法令の明文上にその根拠を有すべきものと解されているところ、公社法には公社職員に対する代理権の授与に関し、その第三条、第一五条に公社は主たる事務所を東京都に置くが、大蔵大臣の認可をうけて必要な地に従たる事務所をおくことができ、その場合には、総裁は公社職員の中から従たる事務所の業務に関し一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する代理人を選任することができると規定されているだけであつて、同法およびその関係法令には公社にその職員に対し権限の委譲を認めた旨の規定は存しないし、また一般に行政機関内部において、本来の権限実施者が、その補助職員に権限の代理行使をさせる事項を事前に明示して代理権限を授与した場合には、その事項については代理人が常に本来権限を持つ者に代つてその意思を決定表示し得る取扱いとなつており、これを本来の権限を持つ者に事故があるときにその権限を臨機に代理行使することを許され、通常代理人の「代」なる肩書を付してなされるいわゆる代決と区別し、専決事項とよび、代理人の名において決定表示することが慣行として行われていることに徴すると、本件求報告および不認可決定が、被告名義の文書でなされているとの事実や、業務権限規程の前記規定の存在も、いまだ前記解釈の正当さを覆すに足りるものということはできない。むしろ、右業務権限規程の規定は、公社法第一五条の規定に基く公社の代理人としての地方局長の所掌すべき従たる事務所の業務の範囲を定めたにすぎないものと解するのが相当である。

そして、代理人によつてなされた行為の効果を訴訟によつて争うには、その本人を当事者とすべきことは云うまでもないところであるから、本訴における被告適格の点についての被告の主張は理由があるものというべきである。

よつて公社地方局長を被告として提起された原告等の本件訴は、爾余の点について判断するまでもなく、すでにこの点において不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井義彦 鍬守正一 落合威)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例